さいとー・ま

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リッチ『女から生まれる』読書会04

アドリエンヌ・リッチ高橋茅香子(たかはし・ちかこ)訳), 1990, 『女から生まれる』晶文社(しょうぶんしゃ).
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www.fukkan.com


103頁から。

要約

1960年代にピルの登場と性革命により家父長制の理想と実際のあり方の矛盾が明らかになっている。出生率の低下を目指す社会運動が起きているが、女性が自分の体をコントロールすることは尊重されていない。出生率の上昇を(部分的に)目指すような黒人のナショナリスト運動も女性の自己の身体のコントロールを考えていない。技術が進んでも進まなくても、どのみち家父長制である。

コメント

家父長制の歴史

歴史はだいたい男中心なのでその意味で男の歴史はすでにありあまるほど書かれているが、父権制についてはまだ解き明かされていない。
そして、その父権制は、ある考え方を基盤として持っている。このつながりがリッチらしい考え方だと思う。経済や法律とかではなく、考え方が問題なのだ、という感じ。

人口増加ゼロ

kotobank.jp
1960年代からアメリカ合衆国やヨーロッパで環境運動やフェミニズムとつながってでてきた政治運動。略してZPGとも言う。現代的にいえば、地球規模での発展途上国への抑圧とつながる可能性に意識する必要があるだろう。

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出生率の高低に合わせて経済を変えるのではなく、社会制度のために出生率を変えることばかりが強調される。
年金制度が出生率増加を念頭に置いているなら、それを変えた方がいいのではないか。

ピル

ピルの服用によって血栓症(けっせんしょう)(血がつまる可能性)の危険が高まる。
Column 59:ピルの歴史|福岡市天神の産婦人科|野崎ウイメンズクリニック

ピルは1960年にアメリカで初めて避妊薬として登場しました。当時のピルはホルモン量が多い高用量ピルであったために、胃腸障害や血栓症などの副作用の問題が起こりました。

しかし、ピルに対する立場もさまざま。
現代のピルと当時のピルは違う。

黒人ナショナリスト

トータルで中絶に反対する右派の人たちは、「黒人女性が根絶やしにするために権利を求めている」という考えの公民権運動の黒人男性を利用することがある。人種、障害にもいえる。タックスイーターとされる黒人女性というフレーミングで差別されてきた。妊娠しにくいからだになるためのピルを福祉給付の引き換え条件になることもある。その健康被害があった。政策的不妊化は人種的な傾向で何十万件とアメリカ合衆国で桁違い。
ci.nii.ac.jp
土屋和代(つちや・かずよ)「第2章 誰の“身体”か?—アメリカの福祉権運動と性と生殖をめぐる政治」
中絶の権利を求めるのにチョイスを使っていた白人系のフェミニストたちに対して、有色の女性たちにとって必要なのはジャスティスだというのが1990年代、カイロ会議あたりで問題になっている。人種差別を無くすと言うジャスティスが大事。ジャスティスがなければチョイスが空転する。

技術

技術が発展しても、それを促進したファイアストーンが指摘しているように、父が属性を選ぶような可能性があって恐ろしい。たとえ技術が発展しなくても家父長制になる。どっちもだめ。
人工子宮のひととされるが、技術そのものより、技術がだれが行使するかという構造を変えようとしたひとだと思われる。

リッチの議論

対立を説明して、どっちもとらないという立場もとらないという持っていきかたをする印象がある。

1

父権制の歴史についてはまだ書かれていない――男の歴史ではなく、かたちづくられ、発展し、独特の表現をともない、自己破壊的であることがわかった父権の歴史である。」(103)
"The history of patriarchy is yet to be written -- I do not mean the history of men, but of an idea which arose, prospered, had its particular type of expression, and which has proven self-destructive."(73)
父権制の歴史についてはまだ書かれていない――男の歴史ではなく、かたちづくられ、発展し、独特の表現をともない、自己破壊的であることがわかったある考え方の歴史である。」と訳した方がよさそうだと思った。