リッチ「女から生まれる」読書会2
アドリエンヌ・リッチ(高橋茅香子(たかはし・ちかこ)訳), 1990, 『女から生まれる』晶文社(しょうぶんしゃ).
前回→hunihunisaito.hatenablog.com
次回→
hunihunisaito.hatenablog.com
96頁2段落から。
要約
女が力を持つことを、男が情にうったえたり神を持ち出して邪魔してくる。女は男の精神が邪魔をされず表現する力強さにアクセスしようとして男を求める。すべての女が力を持っていると無意識的に男が考えている。
コメント
感傷主義(sentimentality)
そもそも、「女も「力」をもてる可能性は、歴史的に、感傷主義と神秘化(sentimentality and mystification)によってあいまいにされてきた」と言う文が分からない。
sentimentalという語は、障害、社会運動で、論理的に訴える情に訴えるというのと反対に位置づけられる。「障害児は天使です」というような発言などはsentimentalとして、批判されている。女は柔らかで穏やかで従順だと神父が情に訴えて女たちが話すことに反対することをリッチは批判している。
神秘化
神秘化といのは、女が神秘化されているか、制度を作った力の源泉の神秘化かどちらだ?→手紙の引用的には、力の源泉の神秘化に思えるが…
mystificationには「ごまかし」という意味もある。
力
「力」というのは、どのような力であろうか?
後の文脈からすると、人前で話すことができるということであると思われる。しかし、表記上は、「力」というのはリッチが否定している意味での力を指すと思われる。つまり、前の文脈では女が持っているとされる力、権力を指していて、リッチはそれを単に生きのびたりするための従属者の手段でしかないと考えている。
グリムケ姉妹
グリムケ(Grimké)姉妹とは、セアラ・グリムケとアンジェリナ・グリムケで、アメリカ合衆国で1830年代に奴隷制廃止運動を行った。その後、女性が講演をすることを非難されて、女性の権利についても主張した。
このグリムケ姉妹に送られたある神父からの手紙が引用されている。その要素を次のように分解できる。
1. 聖書および神を引き合いにだして、女性の権利を制限する(神秘化)。
2. 女性は強い力を持っていると言っている。
3. 「柔らかく穏やかで従順な影響力」(96)、「依存の力」(96)と情に訴えかける(感傷主義)。
シュライナーのリンドールすごい
オリーブ・シュライナー(Olive Schreiner)は、南アフリカのフェミニストである。シュライナーの小説である『アフリカ農場物語』(1883)は南アフリカの農場の三人の子供の成長物語である。その一人がリンドールという女性である。
PDF注意→https://jissen.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=724&item_no=1&attribute_id=18&file_no=1を読みたい。
おそらく、リンドールが将来の見通しが立てないことなどを嘆いたりしたときに、もうひとりの主人公でもある友人のウォルドが女でも力を持っている女はいるから、大丈夫と慰めたのであろう。それに対してリンドールはすごい素敵な返答をする。男はそんなことを言われないし、男は自分が力を持っていることを自然なことのように思っている。ということを比喩的に言っている。そして、女は男にふさわしいとされ女にふさわしくない、または「無関係なこと」(97)とされることに関わらず、代わりに男に関わると主張している。
この最後のところは、ラディカル・フェミニズム的な異性愛のとらえ方をしていると思う。
訳の検討
1
「力のある女がいてもいいかどうか、男が聞かれることってある?」(98)→「男について、他の人に力があってもいいかどうかをあなたは聞かれたことがあるの?」
2
「鬼でも飼うことのように」(98)→「悪魔に取りつかれたように」
しかし、「女たちは何世紀ものあいだ、行動したり創造したいという衝動をもつことを、まるで鬼でも飼うことのように感じてきた。」(98)という一文自体はとてもうまい訳だと思った。しかし、リッチは別に鬼について言っていない。
3
「言葉の本来の意味(できる、能力のあるという)での男の力強さ」(98)→「言葉の本来の意味での(posse, potere, pouvoirは、できる、能力のあるという意味がある)男の力強さ」
posseはラテン語、potereはイタリア語、pouvoirはフランス語である。この語が落ちている。
4
「去勢された」(99)→「去勢するような」
意味が逆になる。